老後資金を守るために知っておきたい不動産トラブル|高齢者が狙われやすい手口と対策

不動産屋の営業マンが家に訪問してきて、仲良くなった経験はありませんか?
最近、その仲良くなった営業マンに売却を任せる方が増えているようです。

もちろん、親身になって対応してくれる不動産会社や営業担当者はたくさんいます。しかし、「親切だった」「話しやすかった」という理由だけで、大切な自宅や老後資金に関わる契約を決めてしまうのは危険です。特に高齢者の場合、自宅の売却や投資など、一度に大きなお金が動く場面を狙ったトラブルには注意しなければなりません。

警察庁によると、2025年の特殊詐欺の認知件数は2万7,832件被害額は約1,423億1,000万円。前年から被害額は約704億円増えています。単純計算すると、1日あたり約3億9,000万円もの被害が発生していることになります。

もちろん、すべてが不動産に関する被害ではありません。しかし、これだけ多くの人が言葉巧みな勧誘によって大切なお金を失っているという事実は、決して他人事ではありません。

そこで今回は、高齢者の老後資金を守るために、特に注意したい不動産トラブルとその対策について解説します。

 

老後資金が失われるのは「資産を動かす瞬間」

悪質な業者が狙うのは、資産を動かそうとしているタイミングです。

たとえば、

「自宅を売る」
「まとまったお金を投資する」
「高額な工事を契約する」

といった場面です。

なかでも自宅は、多くの方にとって人生で最も大きな資産のひとつです。若い世代であれば、仮に金銭的な損失が出ても、その後働いて取り戻せる可能性があります。しかし、50代、60代、70代と年齢を重ねてから数百万円、数千万円単位の資産を失ってしまうと、その後の生活に大きな影響を及ぼします。

だからこそ、老後資金に関わる契約ほど「その場で決めない」ことが重要です。

 

特に注意したい手口①
「売っても住み続けられる」リースバック

高齢者の不動産トラブルで、特に注意していただきたいもののひとつが「リースバック」です。リースバックとは、自宅を不動産会社などへ売却し、売却後はその会社と賃貸借契約を結び、家賃を払いながら同じ家に住み続ける仕組みです。

「住み慣れた家から引っ越さなくてもいい」
「自宅を売ってまとまった現金を受け取れる」

という点だけを見ると、非常に便利な仕組みに感じるかもしれません。リースバックそのものが悪いわけではありません。事情によっては有効な選択肢になる場合もあります。しかし、問題は契約条件を十分に理解しないまま契約してしまうことです。

国民生活センターにも、リースバックに関する相談が寄せられており、2025年の注意喚起では、契約当事者の約7割が70歳以上とされています。相談事例には、生活に困って契約したものの家賃が値上げされて支払えなくなったケースや、認知症の父親が相場より非常に安い金額で自宅を売却していたケースなどが紹介されています。

さらに、2026年8月にも国民生活センターは、リースバック契約後に家賃の値上げを求められ、応じなければ退去するよう言われた相談事例を公表しています。

たとえば、本来3,000万円程度で売却できる可能性がある自宅を1,000万円で売却したとします。手元には1,000万円が入るため、一時的には安心するかもしれません。しかし、その後は毎月の家賃と生活費をそこから支払うことになります。

月10万円の家賃であれば、家賃だけでも年間120万円です。もともと生活費に困って自宅を現金化したのであれば、売却代金は思っている以上のスピードで減っていく可能性があります。そして、売却した時点でその家は自分の所有物ではありません。

「ずっと住めると思っていたのに、条件が違った」

となっても、取り返すのは簡単ではありません。

特に注意したいのは、自宅を不動産会社へ売却する契約は、原則としてクーリング・オフができないことです。あくまでもクーリング・オフは買った人を守るための制度のため、国民生活センターもこの点について明確に注意を呼びかけています。

そのため、リースバックを検討する場合は、売却価格だけではなく、

「通常売却した場合はいくらなのか」
「毎月の家賃はいくらなのか」
「家賃は将来上がる可能性があるのか」
「賃貸借契約の期間はどうなっているのか」
「本当に長期間住み続けられる契約なのか」

まで確認する必要があります。「売った後も住めますよ」という一言だけで判断してはいけません。

 

特に注意したい手口②
相場を知らないまま安く買い取られる

もうひとつ注意したいのが、不動産の適正な相場を知らないまま、安い価格で買い取られてしまうケースです。たとえば、自宅の売却を考えている高齢者のもとへ不動産会社の営業担当者が訪ねてきたとします。

「今すぐ現金にできます」
「この家は古いので、このくらいの価格が限界です」
「面倒な売却活動をしなくても、うちなら買い取れます」

こう言われると、魅力的に感じる方もいるでしょう。しかも何度も自宅まで来てくれて、話を聞いてくれて、親切に対応してくれる。すると次第に、

「この人なら任せても大丈夫だろう」

という気持ちになってしまいます。

しかし、担当者の人柄と、提示されている価格が適正かどうかは別の問題です。不動産会社による「買取」は、仲介で一般の買主を探す方法に比べ、短期間で現金化しやすいなどのメリットがあります。その一方で、買取価格は一般的に仲介で売却する価格より低くなります

問題なのは、その違いを十分に説明せず、所有者が相場を知らないことにつけ込んで、著しく低い金額で契約を進めようとするケースです。たとえば、他社にも査定を依頼していれば「3,000万円前後が相場」と分かったかもしれない物件を、1社だけの話を聞いて2,000万円で売却してしまえば、その差は1,000万円です。

一度所有権が移ってしまえば、

「あとから調べたら、もっと高く売れる家だった」

と分かっても簡単には元に戻せません。

だからこそ、不動産売却では必ず複数の会社から査定を取り、価格だけではなく、その査定額になった根拠まで比較することが大切です。査定額が極端に高い会社を選べばいいわけでも、すぐ買い取ってくれる会社を選べばいいわけでもありません。

「周辺では実際にいくらで売れているのか」
「仲介で売る場合はいくらが想定されるのか」
「買取の場合はいくらなのか」

こうした情報を比較したうえで、自分に合った方法を選ぶ必要があります。

 

点検商法や投資の勧誘にも注意

不動産売却以外にも、高齢者が狙われやすいトラブルがあります。代表的なのが点検商法です。

「近くで工事をしていて屋根が傷んでいるのが見えた」
「今なら無料で点検できます」

などと言って自宅を訪問し、不安をあおって高額な工事契約につなげる手口です。「無料だから」と簡単に家へ入れず、必要な工事なのか別の会社にも確認しましょう。

 

投資についても同様です。

「老後の安定収入になります」
「高い利回りが期待できます」
「今だけの投資商品です」

といった言葉だけで、その場で契約や送金をするのは危険です。特に高齢になってからの投資では、損失が出た場合に長期間待って回復を期待することが難しい場合もあります。老後に必要なお金まで投資に回すことは避け、内容を理解できない商品には手を出さないことが重要です。

 

老後資金を守るために覚えておきたい5つのこと

不動産や投資に限らず、大きなお金が動く話を持ちかけられたときは、次の5つを意識してください。

その場で契約しない

「今日決めてもらえれば」などと急かされても、一度持ち帰りましょう。

その場でお金を払わない

契約金、申込金、投資資金など、その場での振り込みや支払いを求められた場合は特に慎重になる必要があります。

1社だけで判断しない

不動産売却なら複数社に査定を依頼し、価格と条件を比較しましょう。

家族や第三者に相談する

特に高額な契約は、一人で判断しないことが大切です。親が高齢の場合は、子ども世代も契約内容を一緒に確認すると安心です。

分からないものには契約しない

説明を聞いても仕組みが理解できない、質問しても明確な答えが返ってこない場合は、一度止めるべきです。

 

おわりに

大切なのは「一人で、その場で決めないこと」です。悪質な業者は、最初から怪しい雰囲気で近づいてくるとは限りません。むしろ、親切で話しやすく、こちらの悩みをよく聞いてくれる人だからこそ、信用してしまうことがあります。

特に不動産は、数百万円、数千万円という大きなお金が動きます。自宅を一度売却してしまった後に、

「もっと高く売れたことを知った」
「こんな契約だとは思っていなかった」

と後悔しても、元に戻すことが難しい場合があります。

だからこそ覚えていただきたいのは、「その場で契約しない・その場でお金を払わない・一人で決めない」ということです。

自宅の売却やリースバックを提案されたときも、まずはその条件が本当に適正なのかを確認してください。

大切な自宅と老後資金を守るためにも、焦って結論を出す必要はありません。複数の選択肢を比較し、納得したうえで判断することが何より大切です。